美術館・博物館における著作権に関わるお仕事についてのメモ
日々の業務で引っかかる都度調べてはtwitterに疑問点を投げております(が、なかなか識者がサクっと解説してくださるということはありません)。備忘録代わりにまとめておきます。随時更新。
- 美術館内でのコレクションの撮影禁止根拠についてのお話
- サムネOKにしようね、という著作権法改正のお話
- 著作権保護期間が満了した所蔵作品の画像公開のライセンスについて
- デジタル作品の機器・媒体が旧式化したときの新しいメディアへの複製
美術館内でのコレクションの撮影禁止根拠についてのお話
“美術館など作品の所有権者が、撮影を禁止したり、一定の条件をつけたりしているケースはよく見られます...著作権の保護の有無にかかわらず、禁止事項を破ることは、美術館の施設管理権を侵害することになる” / “美術館でも広がる「スマ…” https://t.co/6WAP49PDCv— カスホ (@kasuho) June 18, 2017
これ、著作権法は第二十一条において著作者が専有する複製権を第三十条の私的使用のための複製において制限しているので、博物館が「著作権法を根拠に」私的使用を目的とした撮影を禁止することは原理的にできないんじゃないかとずっと気になってるんですよね。— カスホ (@kasuho) February 26, 2018
『現場で使える美術著作権ガイド』確認したがやはり来館者による撮影の禁止は(著作権ではなく)所有権、施設管理権との関連においてしかなし得ないということで良さそうだ。つまり博物館は撮影禁止の理由を著作権者に帰してはならない。 https://t.co/mVptfafxJ9— カスホ (@kasuho) February 26, 2018
(著作権法30条1項は私的使用のための複製において著作権を制限するのに)著作権者が許可するとはどういうことなの。準拠法は保護国法でしょ?1枚が他館からの借用というのが条件を複雑にしてる気はするけど。 / “シャガール「アレコ」撮…” https://t.co/Z62WFyE3d8— カスホ (@kasuho) August 22, 2018
法律とは無関係に遺族が嫌がることは多々あり関係悪化を避けるべく意向に従うこともままあるんだろうけど、それを「著作権保護期間につき禁止」としたら法律的には間違いなので「管理運営上の理由」とかにするわけでしょ。解禁するときに「著作権者の許可」って言ったら台無しじゃん。— カスホ (@kasuho) August 22, 2018
でも色んな館でこういう言い回しが頻出するので、やはり私の著作権法理解が間違ってるのかしら。自信がなくなってきた。教えて、偉い人。。— カスホ (@kasuho) August 22, 2018
よく分からないままです。
(20180905追記)いわゆる「顔真卿自書建中告身帖事件」で示された所有権と著作権の分離でFA、とのご教示をいただきました。
ccについては、あまり詳しくないので、少々お待ちを。
— 池田(宍戸) 玲菜 (@renakitty) September 4, 2018
撮影については、その通りです。撮影は私的利用なので、著作権では禁止できない、そもそも館は著作権について何ら有していないので、館は著作権をもって何ら請求できない。所有と著作権の分離、根拠はガンシンキョウ事件ですね
博物館や美術館において、著作権が現存しない著作物の原作品の観覧や写真撮影について料金を徴収し、あるいは写真撮影をするのに許可を要するとしているのは、原作品の有体物の面に対する所有権に縁由するものと解すべきであるから、右の料金の徴収等の事実は、所有権が無体物の面を支配する権能までも含むものとする根拠とはなりえない。料金の徴収等の事実は、一見所有権者が無体物である著作物の複製等を許諾する権利を専有することを示しているかのようにみえるとしても、それは、所有権者が無体物である著作物を体現している有体物としての原作品を所有していることから生じる反射的効果にすぎないのである。若しも、所論のように原作品の所有権者はその所有権に基づいて著作物の複製等を許諾する権利をも慣行として有するとするならば、著作権法が著作物の保護期間を定めた意義は全く没却されてしまうことになるのであつて、仮に右のような慣行があるとしても、これを所論のように法的規範として是認することはできないものというべきである。
ありがとうございます!いいですね、所有権者が複製許諾権を持つかのような慣行は「法的規範として是認することはできない」と、極めて明快です。
(20180904追記)おすすめの知財法本をご教示いただきました。
美術館・博物館における著作権に関わるお仕事についてのメモ - 気だるげに逃げるだけ(回文)
著作権ではなく、入館の際にそういう契約をしたとみなされる(そう書いてあるので)話ですね・・・。田村先生の知的財産法(書籍)が多分一番近いことを書いてあると思います。珍しい構成の本なので、ご参考に。
2018/09/04 10:13
ありがとうございます!これかな。
ほんで、たとえばコレクション展の撮影が原則可能な美術館(直接行って気づいたところを書いているだけなので網羅性は期待しないでください/細かい条件は館ごとに違うので確認してくださいね)。
Q: 作品の撮影(デジタルカメラ・携帯電話のカメラを含む)はできますか?
A: 館内の撮影については、下記のとおり展示場所により取り扱いが異なります。撮影不可の場所もございますが、ご了承くださいますようお願いいたします。
1) 1階展示ロビー及び4階コレクション・ギャラリーでは、フラッシュ、照明および三脚等の固定物はご遠慮ください。また、企画展等を実施している時は、撮影できません。
- 富山県美術館
当館での撮影は、下記の場所において可能です。ただし、動画撮影、フラッシュ、三脚のご使用や自撮り棒のご使用はご遠慮いただいております。
2階のコレクション展示の収蔵作品(寄託作品以外)
3階のデザインコレクション、瀧口修造、シモン・ゴールドベルク作品
...
Q10.館内での写真撮影はできますか
企画展示室での写真撮影はお断りしています。コレクション展示室・グランドギャラリーでは写真撮影はできますが、フラッシュの使用はご遠慮ください。 なお、企画展であっても撮影が可能な場合もありますので、詳しくは館内スタッフにおたずねください。
作品の模写・撮影(含デジタルカメラ)はできますか?
本格的な模写はできません。当館が所蔵する作品(常設展示作品)については、写真撮影は可能です。ただし、フラッシュ等の光を発するものや三脚等は使用できません。なお、混雑の状況等により、撮影を全面禁止にする場合もあります。また、展覧会等で他の美術館等から借用した作品の撮影は一切禁止しています。
Q: 作品の模写・撮影(含デジタルカメラ)はできますか?
A: ...所蔵作品展での写真撮影は可能ですが、フラッシュや三脚のご使用はご遠慮いただいております。 また、著作権保護等のため一部撮影をお断りしている作品もありますのでご了承ください(作品横に撮影禁止のマークを掲示しております)。撮影の際には、4階エレベーターホールに掲げた注意事項を事前によくご確認ください。 なお、企画展での撮影は、借用の際の契約上原則的に禁止されております。
(20181106追記)展示種別・著作権保護期間別の撮影可否パターンを一覧にまとめました。
サムネOKにしようね、という著作権法改正のお話
(20181106追記)長くなってきたので別エントリに移行しました。
著作権保護期間が満了した所蔵作品の画像公開のライセンスについて
(20181128追記)長くなってきたので別エントリに移行しました。
デジタル作品の機器・媒体が旧式化したときの新しいメディアへの複製
副産物として思わぬ収穫があったのだが、著作権法第31条1項2号の保存のための複製の解釈として、美術作品の機器・媒体旧式化に伴い新しい媒体に複製することが盛り込まれたみたい。ただ、図書館等施設+司書相当職員配置の条件付き。あとあくまで保存のため、なので展示は不可なのかな。— カスホ (@kasuho) June 24, 2016
「図書館等」には博物館相当施設も含まれる。博物館にとって問題は「司書相当職員」。このうち「大学等を卒業した者で、1年以上図書館事務に従事した経験があり、かつ、文化庁主催の講習会を修了した者」の図書館事務に博物館事務が含まれるか文化庁の方に問い合わせたところ、含まれるとのお返事。— カスホ (@kasuho) June 25, 2016
というわけで、みんな文化庁の図書館等職員著作権実務講習会受けよう!今年度は9月に東京、京都、12月に福岡で開催されるよ。— カスホ (@kasuho) June 25, 2016
まだ受けてないです(20180903現在)。
(以下20190929追記)
静岡県知事記者会見(2016/4/13)美術館・博物館の大学附置機関化部分書き起こし
例の移管の件で川勝知事会見抄録。「(学芸員の)肩書は教授、准教授として、研究者としての学問の自由を保障しなければならない。恒常的に大学院のゼミを持つなど...研究と教育を両立させる」 / “【静岡知事会見抄録】学芸員を県立大付属…” https://t.co/14mEdnwqqO
— カスホ (@kasuho) 2016年4月17日
この静岡県知事記者会見はウェブに上がっています(静岡県/ふじのくにネットテレビ/1ch 知事記者会見/知事記者会見_2016年04月13日)。
そのうち公式が書き起こしをここ(静岡県/記者会見【ようこそ知事室へ】)にアップするようですが、とりいそぎ該当部分(5:18-)だけ書き起こしてみました。
美術館に働いている学芸員がおられます。またこれから博物館、今年開館いたしまして、すでに1万人の入場者を記録したということです。さらに間も無く世界文化遺産としてのセンターが開館し、そこで研究される学者も選定が終わっております。この方達は件の職員なのでしょうか、それとも研究者なのでしょうか。
県の職員だそうです。戦略監がそう答えました。これはおかしいと思います。やはり全国から何百人という応募のなかから選ばれた、しかも選んでいる方々は日本のトップクラスの先生方です。芳賀徹先生だとか、安田喜憲先生だとか、あるいは遠山敦子さんだとかさらに高階秀爾先生だとか、そういう方達によって厳選された、しかも国際公募もしてるわけですね。ですからそうした方達を件の職員とするのはおかしいと思っております。ですから県立の大学の附置機関として美術館なり博物館なりを位置付けるべきではないかと。
ちょうど京都大学に人文研があります。あるいは独立の博物館として国立民族学博物館というのがありますが、そうしたところで研究されている人は、普通の学部の先生でも何か格が高いとすらみられるところがございます。もちろん佐倉にございます歴史博物館もありますけれども。そうしたところの方々のタイトルといいますか肩書きは教授、准教授、そうしたことなんですね。ですから、研究者としての学問の自由というものを保障しなくちゃいけないと存じます。
ただ、そういう美術館ないし博物館の研究者はですね、研究一本、あるいは展示に関わるお仕事をしてくださっているわけですけれども、教育の現場にやはりその知見を戻していく必要があると僕は思っております。したがって、学部の教育はともかくも、ある程度ですね、恒常的に大学院のゼミを持つなどをして、若い青年達を教育するということをあわせまして、研究と教育を両立させると。で、どちらかといえばその研究や、社会的な貢献を博物館・美術館を通してやるということでございまして、これから組織をですね、さしあたっては県立大学の附置機関というようなかたちでやっていきたいと。
いますでに、かつて県の総合研究機構というのがございました。これは今グローバル地域研究センターということになっておりますが、これも県立大学の附置機関と、付属機関ということになっているわけですね。附属して設置される、附置機関ということでございますけれども。そうした位置付けをこれからしていって、せっかく選ばれた先生方を、なにかあの、課長級より以下だとか部長さんより以下だとか、学問を行政の下に置くような、そうしたことがあってはならないと。我々は学問文化に奉仕するという、そういう姿勢を持っておりますので、こうしたことをやっていきたいと思っております。